彼氏くんと彼女さんの事情
大和side
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「ねーねー春川くん!」
2限目と3限目の休み時間、さゆりが俺の席へ来た。
俺は今、夢の世界から無理矢理ひっぱり出され、機嫌が悪い。
「春川くん!ねぇ、起きてってば」
無視して机に突っ伏し、再び遠い国へ旅立とうとする俺に、さゆりは尚もしつこく話しかけてくる。
それでも無視していると、そのうちゆさゆさ肩を揺らされ始めた。
「ねーねー起きてよ」
「………」
はぁ。うるさくて眠れない。
俺が起きるまで続きそうだったため、仕方なく少しだけ顔を上げて薄目を開き、さゆりを見た。
「おはよう春川くん!あのさ、明後日の日曜日、映画行こう」
「いや」
間髪入れずに答えた俺に、さゆりが顔をしかめる。
「何で、行こうよ」
「……いやだ」
日曜日に映画なんて絶対に嫌だ。
休日は外へ出掛けたくない。基本的に、休みの日は一日中寝ている。
第一に、映画を観に行ったとしても95%以上の確率で寝てしまうだろう。
時間の無駄だ、家で寝ていたい。
しかしさゆりは尚も食い下がる。
「お願い、春川くん」
「面倒臭い」
欠伸を噛み殺しながら拒否する俺に、拗ねて唇を尖らせた。そんな彼女を横目でチラリと見る。
諦めの悪いやつだ。
「お願いだよ、春川くーん」
「………行かない」
「大福」
「行く」
コンマ一秒もせずに承諾してしまった。
嗚呼、今までの思案は何だったんだ。
こんなにあっさり食べ物に釣られるなんて、自分は馬鹿なのか。意思の弱さに我ながら辟易した。
「(行くことになってしまった…。)」
さっきまで唇を尖らせていたさゆりが、隣でやったぁと喜んでいる様を横目で見て、俺は小さく嘆息を洩らした。
今日も俺の彼女は、寂しがりです。
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