彼氏くんと彼女さんの事情


しかし。



「ただいま~」




廊下から突然聞こえた優愛の母親の声。



音も立てずに玄関のドアから入ってきたその人の声にびっくりして、奇妙な体勢のまま固まる俺達。




しんと静まり返った部屋に近づいてくる足音。我に帰り、俺は慌ててパッと優愛から離れた。



ガチャッとリビングのドアが開く音と共に、優愛の母親が顔を出した。




「!!……お母さん、お帰りなさいっ」



すかさず俺から離れ、母親の下に駆け寄る。



逃げられた。




「ただいま……あら?高貴くん、来てたの」

「……お邪魔してます」




俺がペコリと頭を下げ挨拶すると。


一瞬優愛と俺を交互に見て、意味ありげな薄笑いを浮かべた彼女。




「あんたたち、健全な付き合いでないと駄目よ」


「………大丈夫です」




まだ何もしてません、未遂です。


と、心の中で呟く。



しかしよく分かっていないらしき優愛は、首を傾げて「何が?」と母親を見つめている。

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