彼氏くんと彼女さんの事情
「……とんがってる」
「?」
「くち」
私の口元に視線を向けながら春川くんが言い、私はあ、と無意識に口を尖らせていたことに気が付き、慌てて口から力を抜く。
「無意識だよ!無意識」
「うん。いつも納得いかないときとか拗ねた時にやってる」
「え、そう?」
「……あと、照れたとき首傾げながら首元触ってる」
「えぇー?」
今までの無意識のうちの自分の行動を知り、何だか恥ずかしくなってくる。
まぁ癖とはそういうものだろう。
「春川くん意外とけっこう見てるんだね」
それも、変な所ばかり。
髪を切ったこともメイクを変えたことも気がつかなかったのに。などと考えていると、また無意識に口を尖らせていたことに気づいて、慌てて手で隠す。
「気づいてほしい所は気づかないくせに」
嫌味を込めて言った。
少しばかり拗ねたような声色の私の言葉に、春川くんは暫し視線を足下に落としたかと思うと、再び真っ直ぐ私に目を向けた。
「………嘘、ついた」
「え?嘘?……なにが?」
「気づかないふりしてた。……ごめん」
「え、」
小さく発せられた予想外の言葉に、じっと目を見つめる。
「髪型とかメイクのこと、気づいてたの?」
私が問うと、こくりと頷いた。
「何でそんなこと」
「んー、ちょっと意地悪してみただけ」
「なにそれっ!」