ピアス
「この静寂ぶりだと勝ったみたいだな」クリフはなるべく明るい口調で言った。



「ええ、日本国は強いですから。でももしかしら数年後にまた戦争が起きるかも」
 柚菜は声を落とした。


「悲観的になるな。まだ起こってもないことに一喜一憂していては生きる楽しみがなくなる」
 クリフは断言した。



「もしかしたらクリフはどこかの国のリーダーだったのかもね」
 柚菜はお盆を下げに台所へ向かった。
 


 その後ろ姿に声をクリフは声を掛ける。
「なぜ、そう思う」
 幾分か語気を強めた。
 気になった。自分を知る手がかりかもしれないからだ。


 「えっ!」柚菜が振り向き、「だって言葉ひとつひとつに威厳を感じるもん」と真顔で言った。



 「それははじめて言われたな」
 クリフはつぶやくように言った。


「それはそうよ。記憶を失ってるんだもん。私が最初よ」
 柚菜は少し首を傾け、笑った。

 その首の角度は癖なのだろう、柚菜自信の魅力を最大限に引き出せていると、クリフは思った。


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