ピアス
「クリフ、ねえクリフ。大丈夫」
 クリフの瞼が徐々に開く、目の前に柚菜の顔があった。生暖かい息が吹きかかる。それが心地よかった。
「クリフ。勝手に外でたら駄目じゃない。憲兵隊に見つかったらどうするの?」
 柚菜がやさしく諭した。親が子をしかりつけるかのように。はたまた親鳥が卵を体温で温まるかのように。いや、どれもこれもナンセンスだ、とクリフは苦笑する。




「なんで笑ってるの?」



「思い出し笑いさ」


「へえ、クリフってそういうお茶目なところがあるんだ」


「一応、人間だからね」
 クリフはさらに笑った。頭痛は消え、服についた砂は落とされ、またも梅粥が傍に置いてあった。


「食べて」彼女は言う。


 クリフは数日で箸の使い方をマスターした。その時に出された箸は銀製だった。前の木製とは違った。彼が力を込めた瞬間、その銀製の箸が変形した気がした。
 

 
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