運命という絆
最内は和田が陣取り拓真は、隣で前走者を待つ展開は皆の期待に沿っていた…

しかし、期待を背負うアンカー勝負と云う処で拓真を待ち受けていた魔物…

秋田が助走を始めるのに併せて拓真も助走を開始した。前走者の差は無いに均しく拓真は、秋田がバトンを受けたのを直ぐ後方から確認したと同時にバトンを受け取る瞬間…秋田の前走者が拓真の左足に絡んだ。そして、バランスを崩した拓真はバトンを受ける前、激しく転倒した…右を左を後方から来るアンカー達が掛け抜けて行く。一気に最下位と落ち、大きな悲鳴に近いどよめきが起こったが、直ぐに立ち上がり拓真は、呆然と立ち竦む自分のチームのバトンを申し訳無さを感じながら受け取り、前を向いた。

しかし、左足の膝が激痛で思う様に動かない…「このバトンだけはゴールに運ばないと…」
拓真は、膝を見た。

激痛のする場所から帯びただしく出血しているが、構わない笑顔を見せて歩くより遅いスピードで、トラックに向けて重い脚を動かした。

「手当てをしましょう…」

チームの面々が横に首を振り両手で拓真を止めようとしたが、拓真は、笑顔を崩す事無く止める面々に、前を開けて貰い、進み始めた…

「会長…」「拓真…」

「頼む…最後迄、行かせてくれ」

その言葉は重く揺るがない…

「拓真ぁ~!」トップでゴールした秋田が叫びながら近寄り、自分の紅の鉢巻きを拓真の膝の上に縛った。
「ありがとう…」
拓真は、そう残し半周目のゴールへ一歩ずつ脚を引き摺りながら前に進んだ。

「部長…良いのですか?」「行かせてあげよう…そして、待とう!ゴールで合同祭のフィナーレは彼の気の済む様に見守ろう」

拓真の前に見えるのは、トラックだけしか無かった。秋田が、後ろから声を掛けた。「頑張れよ…拓真、行けよ。気が済む迄!」

その声に拓真は、振り向きする余裕も無いが右手を挙げて応えた。

後は見守る人、それぞれ頭の中で色々な考えが錯綜しながらも、前へ脚を動かす拓真の一投足を焦点から外せ無かった。

秋田のしてくれた適切な処置で、流れ滴る血は落ち着いたが、激痛は続く…今は、ゴールへバトンを置く事しか頭の中には無い。
「前の七人が、必死に走り繋いだバトン…責任だけは一選手として全うする!」

脚を交互に動かせばゴールへ確実に届く…兎が亀に替わる等、誰もが予想外の事態の中、半分の距離を進んだ時、"シン"と静まり帰った校庭にスピーカーから声が響いた。

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