仮面
「ただ不思議なのは、全員別々の場所で―」


「1人は地元(A市)、T市、S市、そして山口典子はこの県だ」(K市)




 思わず市川は、まるで呼応するかのように言葉を発して、それを聞いていた原田を驚かせた。



 市川はビールジョッキに手を掛けようとしたが、手は震え、口も震えていた。




「まさか調べていたんですか?」



「えぇ・・しかし随分長い間調べていましたが、繋がったのは小学校の同級生ということだけで」





 自然に笑みを浮かべていることに市川は気がつかなかったのか、口元を手で触れたときに少しだけ驚いた素振りを見せた。



・・・これで繋がる。



 そう思った瞬間「でも黒沢は何も教えてくれやしませんよ」と原田が釘を刺すように言った。




「どうしてです?」




 原田は深いため息を吐いて鶏肉を口に入れると、「認識が遠過ぎると駄目みたいです」と左頬を膨らませながら言った。




「同じ方向に向かってないと話をしてくれないわけですか」



「そういうことです。話を変えますが、市川さん、あなたメモを見ましたね」




 それほど気を置かないように言った台詞は、今度は市川の動きを止めた。



 しかし市川は臆することなくすぐにビールを飲んでみせて、「えぇ。たまたま・・いや、探したらあったもので」と言って原田に微笑み掛けた。

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