仮面
 その問いで我に返った市川は「それはたしかに妙ですね」と切り返し、鳥皮を頬張ってビールを口に運んだ。



 たしかに妙だ。



 メモの信憑性は失われたが、この事実は何か別のものに繋がる可能性がある。



 意味もなくメモに、それもまるで一週間の予定のように記すだろうか。




「意味があるわけか・・いやないのか」



「冷静になってくれましたね。そうそこなんです。あのメモはあたかもこの週の予定に見えます。それはあなたもそうだったから、坂井教授に会い、野村に接触したはずです。目撃者を探す傍らで、我々も同じ行動をしました」



「なるほど。狙いがそこだとしたら・・」



「メモに記された人物以外に犯人がいる。たしかにその可能性はありますよね」




 その可能性は市川の頭の中にも浮かんだ。



 しかしそれでは妙なことがある。



 それではまるで上田自身が犯人を隠蔽しているということになる。



 念のために死亡推定時刻と、指紋について原田に訊ねてみると「死亡推定時刻は先週の火曜。部屋の中の指紋はほぼ上田のものでした」とため息混じりに返答がきた。

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