仮面
 早々と食事を済ませると、市川はすぐに死体のあった部屋に向かった。



 道路にはすでに2台のパトカーが停まっていて、市川が2階に辿り着くと何名かの警察官がいた。



 警察官に事情聴取を受け、話をする中でわかったことがあった。



 何とか平静を取り戻した中年の女は、このアパートの近所に住んでいる大家だということだ。



 被害者の素性はまだわからないが、被害者が家賃を滞納していたため、大家が今日ここを訪ねたそうだ。



「一週間前には連絡できたんだけどねぇ」     



 警察と話をしていた大家は左手の親指の爪を噛みながら、息を切らしたようにそう言った。



 ありがたくも大家は、警察を呼ぶ前の数分間、市川が部屋の中で動き回っていたことを話さなかった。




「ではまた何かありましたら、ご協力お願いします」



 市川は警察官のその言葉を聞くと「お疲れさまです」と言って、すぐさま、走ることなくそば屋へ戻っていった。
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