仮面
 市川は目を閉じる中、被害者の顔や部屋の状況を思い返した。



 暗くてしっかりと見えたわけではないが、おそらく自分よりは年下だ。



 自分よりも若い人間がなぜ、体から心臓を抜き出されるような殺され方をしなければならなかったのだろうか。



 家庭環境は普通だったのだろうか。




「名前じゃなくて、義母だもんなぁ」




 市川は目蓋を開け、メモに目を落とした。



 離婚はどこにでもあるようなことだ。



 親の為すことに子供は逆らえず看過され、いつか強引にも受け入れる。



 被害者の家族関係はまだ不明だが、きっとその事実を受け入れることなく「義母」と記したのだろう。




「家賃滞納の挙げ句、義母が来る予定か・・」




 そんな被害者を無残に殺したのは一体誰なのか?



 被害者の立たされていた状況を勝手に推測したが、市川はその推測に自信があった。
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