仮面
 そして何も考えずに足先の方向に目を配ると「あっ!」と声を上げ、市川は急いで両足の裏を交互に見た。



 心臓を取り出された遺体の現場に足を踏み入れたのにも拘らず、市川の足の裏には血の一滴の跡すらなかった。



 市川は頭を掻いて、何度も首をかしげた。



 あの現場には、遺体の体以外に血がついていなってことか?        


 遺体がビニールで覆われていたとはいえ、市川は遺体のすぐそばまで足を踏み入れていた。



 被害者は自宅で殺害されなかったという可能性が市川の脳裏に過った。



 自宅以外での殺害ならば血が床に滴れることはなく、市川の足の裏に血がつかなかったことも理解できる。



 しかし疑問もある。



 果たして心臓を取り出すような大それた作業を一体どこで行ったのだろうか。


 それに人通りがわりと多いところにあるアパートの一室に死体を運んだという点も妙だ。
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