仮面
 あのメモ自体、何の予定なのかわかっていない。



 市川が考え込んでいると大家は「じゃーこれで」と言って立ち上がった。




「あーわざわざ来ていただいてありがとうございました。何か思い出したことがありましたら、ここに連絡ください」       



 市川はそう言って、自分の携帯電話の番号が記された名刺を大家に渡した。 


 大家は「はいはい」とため息混じりに言って、あからさまに嫌そうな表情を浮かべながらそば屋から出ていった。



 あんな奇怪な事件が自分のアパートで起こり、加えて家賃や新規住人の確保に支障があるものだから、嫌がるのも無理はない。




「あんま大家さんに迷惑掛けちゃダメよ」




 おばちゃんも大家の心情を察したのか、二人きりになった途端、市川にそう言って釘を刺した。
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