仮面
 中には関わりたくないのか、市川を無視して逃げるように立ち去った人間もいた。



 しょうがねーよな。



 市川は落胆しつつも、メモに残された人物の訪れを辛抱強く待った。




 人の行き来がなくなった夕方に、誰かが胸に大きな何かを持って道の向こうから歩いてきた。



 そのゆっくりこちらに近づいてくる影を、市川は目を細めて見た。



 女・・花束?



 市川の目に映ったのは、花束を胸に抱えた若い女の姿だった。



 順子か?



 そう感じ取った市川は一瞬、その女に話を聞くべく立ち上がった。



 しかしそんな逸る気持ちを抑えるように、市川はまたその場に座り込んだ。



 まだ順子とは確定したわけではなく、焦って近づいて逃げられたら本も子もないと思ったからだ。



 女が上田の部屋の前に行くまで、市川は待つことにした。
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