仮面
「あの、そろそろ帰ります。これ大学と彼の前職の電話番号なので」     


「あっすみません。今日はありがとうございました」



 2つの電話番号をナプキンに手際良く書いて差出し、彼女はゆっくりと立ち上がった。



 しかしこんなしっかりした女性が別れたくないほど、上田は良い男だったのだろうか。



 不意にそんなことを思い問い掛けようとしたが、市川はさすがに踏み込み過ぎかと即座に考えを改めた。


 窓の外で市川に会釈して立ち去っていった川本の後ろ姿は、どこか凛としていてどこか落胆しているようだった。        


 彼女の後ろ姿を見送ったあと、市川はまたメモと睨み合った。



 土曜日の午後が彼女なら、午前が大家か。



 じゃー野村は月曜か先週の日曜か?クロサワが金曜・・



 市川は妙な唸り声を上げて天井を見上げると「曜日くらい書いておけよ」と呟いた。
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