仮面
 市川はここぞ言わんばかりに、坂井教授を攻め立てた。



 焦りがあったわけではなかったが、黙り込む相手には攻め立てる手法は市川の定石だった。      



「いえ、何も。友人ではありましたが、やはり年の壁があったのでしょうか。彼とは心理学以外で会話をした記憶がありません」




 坂井教授は冷静かつ丁寧に言葉を返したが、市川は目を光らせた。



 ようやく弁解に回ったな。




「心理学?彼はそのためだけにあなたと?


 それならば尚更、あなたは彼から何かを悩みを聞いているはずだ。


 例えば心理学をもっと専門的に学びたいとか」




「・・たしかにそんな話もしていました」     



 掛かりやがったな。



 市川は思わず手を握り締めて、飄々としている坂井教授を睨むようにして見た。




「なるほど。それならなぜ先程は心理学以外の話をした記憶がないと言い切ったのです?私を出し抜くおつもりだったのでは?」
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