仮面
「あーわからん!」



 その声と共に市川は体を起こし、机の上にある時計に目を移した。



 もう正午を過ぎていることに気がつくと、市川の腹から拍子抜けするような音が鳴った。



「もうこんな時間か」



 そう呟いて市川は部屋着を脱ぎ捨て、押し入れに入れてあったジーンズと紺色のTシャツを着た。



 そして愛用のショルダーバックを肩に掛けると、サンダルを履いて外へ出た。



「暑いな、くそ」




 空を見上げると雲一つない晴天で、直射日光が市川を攻撃していた。



 手で扇ぎながら、市川は近所のそば屋に足を運んだ。



 住んでいるアパートから歩いて10分も掛からないところにあるから、料理をすることが面倒だった市川はそのそば屋の常連だった。



「こんちわー」



「あー市川君、いらっしゃいましー」




 小さなそば屋を切り盛りしているのは、市川より10歳以上年上のおばさんだった。
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