仮面
「私がここに来ることを、クロサワさんに仰りましたか?」




 市川は思い立ったかのように、唐突に坂井教授にそう言った。




「えっ、えぇ。ジャーナリストの方が次に来るからと。それで何とか帰っていただきました」



「なるほど。ありがとうございます」




 メリットはもう一つあった。



 まるで偶然かのように、俺と接触できる。



 接触した上で、こちらが持っている情報を探ることができる。



 もし本当に自分の推測が正しいなら、クロサワは相当頭が切れるか頭がおかしいかのどっちかだな、と市川は思った。




「言ってはまずかったですか?」



「いえ。とんでもない」




 むしろありがたい。



 もしクロサワから接触してくるならば、こちらの手間がだいぶ省ける。
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