仮面
「あっ、失礼。取り込み中でしたか」




 そう言ってクロサワは坂井教授に向かい頭を下げ、顔を上げるとソファーに座る市川に目を移した。



 これが普通の表情なのか?


 クロサワの目は何かを探るような、どこか威圧しているかのような、そんな目をしていた。      



「先程、あなたの話をしていたところです」



 不意に坂井教授がそう言うと、クロサワは「えっ?」と驚いたような声を漏らした。




「ペンを取りにきたのでしょう?」




 坂井教授が嘲るように右の口角を上げながら、テーブルに置いていたペンを取り上げてクロサワに差し出した。         



「あっ、すんません」




「あと、あなたの職業は?ジャーナリストですか?」



 ペンを受け渡すとすぐに坂井教授は早口でクロサワにそう訊ねた。
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