仮面
 疑問を抱きつつもその名刺をしまい、「市川です」と言って自分の名刺を黒沢に手渡した。




「・・フリージャーナリスト」




 名刺を手に持った黒沢はそう呟いて、目を細めて静止した。



 ただ静止しただけにも拘らず、どういうわけか空気が張り詰めた。



 市川は黒沢に目を向けたまま生唾を飲み固まった。



「・・そういえば友人にもフリージャーナリストがいましたよ」




 その黒沢の言葉で張り詰めた空気が解放され、市川は肩をなで下ろした。



 本当にただの探偵か?



 市川は顔を下に向けて密かに汗を拭いながらそう思った。



 少し体を震わせながらタバコを取り出した市川に


「ここでは吸えないので、一階にある喫煙所へ」


 と坂井教授は軽く促した。
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