仮面
 市川がゆっくりと立ち上がると、「俺も」と言って黒沢は部屋を出ていった。


 俺から情報を引き出すつもりでいたか。



 部屋を出た瞬間に扉の向こうで、坂井教授が吐いた深いため息に笑みを零した市川は、黒沢の後をゆっくりと追った。



 一階に着いた市川は辺りを見回しながら来た道を戻っていき、玄関の隅に設けられた喫煙スペースを見つけた。



 その隔離された小さな喫煙スペースの中にいる黒沢を見ると、妙な感じがして市川は思わず吹き出しそうになった。




「喫煙者の肩身も狭くなったもんですね」




 市川がその空間に足を踏み入れるとすぐに黒沢はそう言って窓の外を眺めた。



「しょーがないですよ」




 市川がそう言いながらタバコをくわえると、


「まぁ元々肩身が広かったわけでもないですがね」


 と言って黒沢は白い煙を吐き出し、天井を見上げた。
< 58 / 106 >

この作品をシェア

pagetop