仮面
　足繁く通うようになり、市川は「おばちゃん」と呼ぶようになった。




「何にする？」



「あー天そばにとろろ。あと卵掛けごはんを」




　そば屋のおばさんは「また？」と笑いながら奥の厨房に消えていった。



　店内には扇風機しか置いてなく、市川は客が自分一人だけのときはいつもその扇風機の前に座り込んでいた。




「暑ぃ。おばちゃん暑くないのー？」



「暑いよ、そりゃ。上の窓も開けてちょーだい」




　いつものやり取りが行われ、市川は入り口上部にある窓を開けた。




「きゃーっ！！」




　窓を開けてすぐさまそば屋の天井からけたたましい悲鳴が聞こえた。



　そば屋があるのはアパートの一階の道路に面したところで、客がいない静かなときは時折アパートの住人の声が聞こえた。



　ただ今回のようにはっきりと、しかも悲鳴が聞こえたことはなく市川は驚いた。
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