仮面
 その悲鳴は厨房にいるおばちゃんにも聞こえたようで、


「何?今の?」


と表情を強ばらせて、天井を見上げたまま立ち尽くす市川に言った。




「・・ちょっと見てくるよ」




 市川はバックを肩に掛け、そば屋の横にある古びた鉄製の階段を上った。



 2階に近づいていく内に市川の耳には、人間の荒い呼吸音が入った。



 市川は何か良からぬものを感じ、残りの階段を駆け上がった。



2階に着くと、ちょうどそば屋の上部に位置する部屋の前で、中年の女が通路に尻餅をついて鉄柵に上半身を預けていた。



 部屋のドアは開いていて、その中年の女は「あっ、あっ」と妙な声を微かに出しながら、部屋の方に目を向けていた。



 市川はすぐさま駆け寄り「大丈夫ですか?」と中年の女に声を掛けたが、「あっ、あっ」と口にするだけで会話にならない。



 そのしゃがみ込んだ態勢のまま、市川は部屋の方に顔を向けた。
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