仮面
・・わからねー。ただの探偵か?ほんとに。



 坂井教授の口ぶりからすれば、坂井教授達の仲間でなければ、その敵対していた相手方の中でもない。



 不可思議なのは、黒沢が血を流している人間を前にしても冷静だったということだ。



 まるでそういった現場に慣れているような感じだった。



 探偵が、そんな現場に慣れるほどの仕事をするものか?



 一般的には浮気調査などが多いと聞く。



・・下手すりゃ、この名刺も嘘かもな。



 市川は取り出した黒沢の名刺を見ながらそう思った。



 電話を掛けるのは、まずは佐山探偵事務所が本当に存在するか調べてからの方が得策だと市川は考えて、その名刺をバックの中にしまい込んだ。



 帰り道、市川の体は妙に震えていた。



 人が死んでいく様を、直接それを見ていたわけではなかったが、たしかにその場にいた。



 しかし市川の表情は恐怖からくるものではなかった。



 笑みを浮かべていた。



 明らかに楽しそうな。
< 70 / 106 >

この作品をシェア

pagetop