仮面
 催眠やマインドコントロールだけで、ピンポイントに人を殺せるはずがない、と市川は考えた。



 しかも丁寧に上田の遺体をビニールで覆った人物だから、理性は保っていたに違いない。



・・一体どんな実験が・・


 その後、弁当に手をつけながら考えを巡らせたが自分を納得させるような仮説を立てられず、ベッドに移り目を閉じながら考えているといつの間にか市川は眠りに堕ちていた。




 次に目を覚ましたのは規則的な携帯電話の電子音で、市川は顔をしかめながら画面を見ないまま電話を受けた。




「野村です。市川さんの電話でしょうか?」




 その言葉に市川は驚き「え、えぇ」とやや焦ったように答えて急いで体を起こし、机に向かった。



 髪をボサボサと掻きながら右手にペンを持って、相槌を打ちながら紙の束の上でペンを走らせた。



 電話を切ると市川はタバコをくわえて深く吸い、白い煙を吐き出しながら笑みを浮かべた。



・・ありがてぇ。
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