仮面
 心理学の専門書を多く持つ人間が、自分を嫌っている人間を見抜けないのは妙だ。


・・まぁ心理学ってのがそんな力があるかどうかなんてわからないがね。



 そして最後の質問のときの態度も気になる。



 もしかすればただ単に煩わしかっただけなのかもしれないが、目を合わそうとはしなかった。



 ただそれだけのことではあるが、その点も釈然としなかった。



 推理に一呼吸入れるようにそう心で呟くと、深いため息を漏らして、興味もないファッション雑誌に目を落とした。



 それをパラパラと捲り、元の位置に戻すと市川はまた違う雑誌に手を掛け、その間に野村の様子を再度窺った。



 コーヒーカップの底を斜め上に傾けて、どうやらコーヒーを飲み干したようだ。



 それから顔を左斜め下に傾けると、野村は一度眼鏡を直し、立ち上がって店の外に出てきた。



 市川が携帯電話で時刻を確認するとそろそろ50分になろうとしていた。
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