仮面
　生命保険の営業がどんな行動をするのかは詳しくは知らなかったが、一般的な基本労働時間を考えると、野村は急いで会社に戻るに違いない。



　本当に会社に戻るのであればの話だが。



　市川が雑誌の上から様子を窺っていると、野村は腕時計に目を落とすと早足でその場から立ち去った。



　一応、確認しておくかと、市川は野村を尾行することにした。



　会社に戻ると言ったのは自分を追い払うための口実にすぎないとはわかっていたが、果たして野村はこのまま会社に戻るのであろうか。



　外回りの可能性もある。



　しかし前者の予想が的中したらしく、野村は駅近くにあるビルの中に姿を消した。



　そのビルの８階に野村の勤めている生命保険会社があると、１階のインフォメーションで確認が取れた



　確認が取れると市川はビルから出て、目を細めながら携帯電話で時刻を確認した。



　１時になったばかりか・・。



　もう戻るしかないが、部屋に帰って推理という気分にもなれなかった。
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