タイムストッパー
「えっ?」

 田久万の目の前は常識では考えられないことが起こっていた。動いているはずの電車は急停車していたのだ。事故で停まったのかと思った。

 警報機の赤色灯は一機が点灯しているが動いていない。もちろん警報音も鳴っていない。

 田久万は三百六十度、辺りを見回した。

 結果は思った通りだった。人も微動だにしない。田久万は近くにいた人を手で体に触れて見たがそれでも動かなかった。

 時間が止まったのだ。

 田久万は遮断機をくぐり、電車の先頭まで行って横切り、遮断機のある方向に目を向けた。おばあさんの後ろ姿が見えた。

 急いで田久万は走った。遮断機におばあさんは寄りかかっていた。

 その二メートル先に車が停まっていた。時間が止まらなければ、ワゴン車におばあさんは巻き込まれていたであろう。

 田久万はおばあさんを動かそうと、触れた。肌の質感がマネキン人形のように硬かった。抱きかかえるように持ち上げたが、小柄な体が重くて持ち上がらない。

額から汗が流れ落ちた。

「もう、やめた!」

 と、田久万は叫んだが、時間は止まったまま動くはずもなく、途方にくれるのであった。
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