タイムストッパー
 今、時間が動いてしまえば、田久万も巻き添えをくうことをふと思った。

 まだ、時間は止まったままだ。

 田久万はワゴン車をどうにかしたいと思ったが、運転手を車から降ろすのも不可能だし、車の運転さえ知らないので、どこを操作すれば停まるかさえも知らないのだ。

「俺はどうすればいいんだ!」

 もちろん、叫んでも誰かが助けてくれるわけでもなく、無性に泣きたくなった田久万だった。だからおばさんを持ち上げるのあきらめた。

 田久万は横に小学生の男の子がいるのに気がついた。このままにすれば男の子も被害に遭うのだ。

「しょうがないな」

 田久万は男の子を持ち上げるのではなく、引きずるように動かした。おばあさんより少し体重が軽いので、何とか動かせるのだ。とは言っても容易ではない。

 ワゴン車がガードレールに寄り添うように貼り付いているので、道幅はある。
 田久万はどうにか男の子をワゴン車の後ろまで運べた。

「終わった! 動け!」

 と、田久万は念じた。

 だが、まだ時間は止まったままだ。

 田久万はおばあさんを見捨てることができないので、救出することにした。そうすれば止まっていた時間が動きだすような気がした。
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