タイムストッパー
 おばあさんの二の腕は細く、力をこめれば折れてしまいそうだった。田久万はしっかりとおばあさんの腕を持って、後ろ向きで引きずりながら歩き出した。

 いつ時間が動きだしてもおかしくはなかった。動けばワゴン車の巻き添えは免れないのだ。

 汗を拭うのさえ忘れるほど、必死で田久万はおばあさんを引きずった。

 止まっている時間の中で経過はわからない。もしかしたら、五分くらいかもしれないし、一時間かもしれなかった。

 おばあさんを危険な場所から引きずり出すと、止まっていた時間が急に動いた。

 ワゴン車は遮断機を突き抜け、車体は横倒したが、勢いは止まらず、走っている電車に飛びこんだ。

 鉄と鉄がぶつかる衝突音が鳴り響いた。ダイナマイトでも爆発したような感じである。

 ワゴン車は停まった。

電車も急ブレーキをかけ停車した。

 田久万は疲労困憊で、口を開けて見ているだけだった。

 ワゴン車はへこみ、窓ガラスも全て割れ、周りに散乱している。電車もへこみ、出入り口のドアの窓ガラスが割れて乗客の顔が見える。

 目の前は大惨事だ。

「救急車!」

 と、どこからともなく、声が響いている。
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