タイムストッパー
 事故の概要は靴虫浩、五十二才の運転するワゴン車が遮断機を突き破り、電車に衝突した。幸い死者はなく、衝突した車両の乗客が打撲などの軽傷ですんだ。

酒に酔っていたので運転を誤ったのだ。

 問題は昨夜のおばあさんの証言だった。

ワゴン車に轢かれそうになったが、一瞬にして安全な場所に移動したと言った。リポーターは言葉を返すことなく、黙殺した。テレビのリモコンでチャンネルを変えるがどこの局も同じような内容だ。おばあさんが一瞬にして移動した話はカットされて放送した局もあった。

 田久万は時間を止めたことが事実となった。勘違いでないことはいいが、なぜ時間を止められるのかは不明だし、寝る直前にものすごく早く時間が経過したので、止めた時間の埋め合わせのような感じだ。

 つまり、止めた時間分だけ田久万も止まるのだ。

 この不思議な力を人に説明しても信じてくれるはずもなく、何に利用すればいいのかと思案しても、昨日のような事故など日常茶飯事あるわけがないので、悩んでいるのだ。

 またしても、玲が教室に入ってきた。

その横には慶子がいる。

二人でヒソヒソと密談をしたかと思うと、慶子も座っている席から立ち上がり、玲の後を追うように教室を出て行った。

 田久万は慶子の後ろ姿を見ていた。
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