タイムストッパー
 だが、父親も走って追ってくるわけではなく、一歩を踏みしめるようにのっそりと近づいてくる。

「駅前に行けば交番があります。そこに行きますよ」

 義母は黙ってうなずき、ハイヒールをその場に置いて、また歩き出した。

 簡単に逃げられるはずだった。

 駅前に近づくにつれ、異変に気がついた。

 人々が駅前から離れようと、逃げまとうように走っているのだ。

 すれ違う人とぶつかるのを避けなければならなかった。

 戸井田はこれでは前に進むのも危険だ。

 時間を止めて、戸井田だけ駅前に向かった。

 駅のロータリーに着くと、空中にヘリコプターが今にも墜落しそうに止まっていた。バスも停車中で、お客も乗車して待っている状態だ。椅子の席はほぼ満席だ。

「あれ?」

 戸井田は声の主を見た。男子高校生だ。それも止めた空間に一人だけ動いている。

 何者だ。

「千紗!」

 男子高校生は戸井田の知っている名を呼んだ。
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