タイムストッパー
「それじゃ、そこのホットドック、一個」

 店員は気まずい雰囲気も無視して、機械的にホットドッグを紙袋に入れ、バーコードをスキャンした。

「百五十円になります」

 戸井田はポケットに入っていた一万円札を取り出し、店員に渡した。

 店員は手順通り、一万円札を検銭板に置き、レジスタに金額を入力した。

 当然ドロアーが開き、お釣りの札を数えて、戸井田に返し、レシートと一緒に小銭も渡した。

 戸井田は店員を見ないで、そっぽを向く感じで突っ立ったままだった。

 レジ前で動かない青年を訝しいと思う人はいるかもしれいないが、今はレジに並ぶ人さえいないので、誰も疑いの眼差しもなかった。

 店員さえも戸井田をあやしいとは思っていなかった。

 店内が空いている時間を狙ったのは、戸井田の計算通りだ。

 店員は開いているドロアーのコイントレーを持ち上げた。そこには一万円札が保管してある。防犯上、一万円札は十枚以下が望ましいのだ。

 戸井田は顔を動かさないで、目の先だけをレジスタに向けた。
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