タイムストッパー

歯車

 四階建てのマンションだった。

 外壁は最近塗り直したので、新装のように見えるのだ。

 室内に入れば築二十年以上経過したとわかるだろう。

 壁はタバコのヤニで黄色く変色し、窓ガラスは曇り、外もよどんで見えるのだ。

 戸井田の賃貸のマンションである。

 母は中学三年生のときに交通事故で亡くなった。

 母が生きている頃は楽しかった。

 何もかもが順調だったのだ。

 母の死後、人生の歯車が狂い始めたのだ。その後すぐに、父親は後妻をもらうが、戸井田とはうまが合わなかった。

 父親もそのころから仕事がうまくいかなくなり、酒に酔うのが増え、義母に暴力を振るうようになった。

 耐え切れなくなった義母は失踪した。父親も戸井田も警察に失踪届けを出していないので、未だに行方不明である。

 戸井田は高校二年生のとき、喫煙が教師にバレてそのまま高校を中退した。そんな絶不調の最中に不思議なことが起こったのだ。

 時間が止められることができたのだ。初めのうちは頭がおかしくなったのかと何度も疑った。

 しかし、事実だった。
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