タイムストッパー
 それでも、新たなターゲットをさがすため、銀行の前で客を観察し、銀行の自動ドアを開けて、ATMのコーナーを通り過ごす人を見たら、入る気構えをして、カウンターで受付をしている人を見たら、即、店内に時間を止めずに入るのだ。

 入金しにきた人の場合はお金が手から離れたら時間を止める。そして、札束の上から五枚ほど抜き盗るのだ。ときには一枚しか盗れないこともあった。
 
 始めはタイミングが難しくて、店内に入るまでに失敗したが、コツをつかんでしまったので、今は楽勝だ。

 要は銀行に大金を入出金する人は決まって同じ人が多いのだ。だから来店する日付も時間も同じになるのだ。

 だがそれには訓練がいつも必要で、盗った後はコンビニに寄り、一万円札で何か買えば必ずコイントレーを持ち上げるのだ。そしてそこでもお金を抜き盗るのだ。

 防犯カメラは戸井田を映しているが、時間が止まっているので犯行は証明できない。

 手袋をはめているのは、時間が止まっている間は特に札で手を切りやすいのだ。出血して床でも落ちれば強盗の証拠となる可能性があるからだ。

 念には念を押すのだ。

 未だに誰も気づいていないのだ。
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