タイムストッパー
「まあ、いいわ……」

 千紗は踵を返した。

「おい、話があるんだろう? 気になるじゃないか!」

 千紗は顔だけ田久万に向けた。だが、笑顔はなく無表情だった。

「茂呂くんと大口がいないのよ」

「えっ?」

 田久万は拍子抜けした。もっと重大なことを言い出すことを想像していたからだ。千紗とは小学一年生の頃から知っているので、こんな無表情は記憶にない。

 それだけに少し怖い気もする。

「きっと、またどこかでいじめているんだわ」

「そんなに気になるのか?」

「当ったり前でしょ。弱い者いじめして、ほっておけるわけないでしょ!」

「まあまあ、そんなに興奮しないで」

 田久万は千紗をなだめるつもりで言った。

「興奮とかじゃなくて、どうすんの茂呂くんがいじめを苦に自殺でもしたら!」

「自殺? 大丈夫じゃないの。それにあの二人はただじゃれ合っているだけだよ」
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