タイムストッパー
「さあ、こんなやつ無視して、帰りましょう」

 千紗に促されて、茂呂は後を追った。

 田久万は慶子を目でさがした。帰り支度をしている。いつ見てもきれいだ。癒され、さっきまでの怒りは消えた。

「えっ?」

 田久万は小さいが声が漏れた。目を疑いたかったからだ。

 慶子と大口が会話している。

 田久万は血の気が引いて、ぶっ倒れるのではないかと思うほどだ。立っているのがつらくて、その場に体育座りした。

 なぜ?

 田久万は二人が会話している理由が思いつかない。

 慶子は美人なので、男子生徒なら好意があるのは当然である。しかし、ルックスが良いわけでもなく、勉強もスポーツも並程度で、ずば抜けて得意はなく、話も面白くなく、クラスのいじめっ子であるので、田久万とそう違わない。

 わからない。

 ただ羨ましいと思うだけだ。

 田久万は時間を止めて、慶子と触れることにした。それが今、やりたいことだ。

 慶子が微笑んだ。
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