タイムストッパー
「いじめじゃないって。そうだ、これを見ろよ」

 大口は携帯電話を取り出した。そこには映像が流れていた。田久万は携帯電話を受け取ると、画面を凝視した。

 画面には茂呂が言っていた通り、倒産した倉庫のようだ。画面の奥から茂呂が歩いている。

 固定されて撮影しているようだ。

 茂呂が段々と大きくなってきている。

 そこで急に画面の中で音がして、茂呂は仕掛けてある落とし穴に吸いこまれて行く。深さはアゴまであるようだ。穴の中は泥水が入っていて、茂呂は顔までつかり、泥を飲んでしまったようだ。

 咳きこんで泥を吐いている。

 大爆笑している。田久万の背後で携帯電話をのぞきこんでいた生徒たちが笑いを堪え切れなかったようだ。

 田久万も茂呂の滑稽な動きと周囲の爆笑の渦で笑うのを堪えた。だが、肩が振るえるのは無理だった。

「ほら、面白いだろ」

 大口は待っていましたと、言わんばかりに田久万に向かって言った。

 田久万は思わずうなずきたくなったが、爆笑の渦の中、慶子が席を立ち、教室から出て行くのが見えた。

 急にどこに行く?

 田久万は気がかりになったので、肩の振るえが止まった。
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