タイムストッパー
 戸井田はわら半紙を一枚だけ触った。厚紙のように簡単に折れないようなそれでいて、重りが乗っているような感覚だった。

 紙数枚なら止まった時間でも動かせることは可能だ。

 戸井田は再び、生徒を見た。

 このままにして置けば、ケガをすることは間違いない。

『時間を動け』

 と、戸井田は心の中で念じた。

 変化はなかった。

 だから生徒を助ける方法を考えた。

 落ちてくる生徒の着地点にやわらかい物を置けばいいのではないか。

 やわらかい物と言えば、体育館にあるマットである。

 しかし、体育館のドアが閉まっている可能性はある。もしも開いていたとしても、マットを運ぶのは一人では無理だ。重いはずだ。

 やわらかい物。

 戸井田は思案するが近くにクッションの役目をする物などあるはずもなく、あったとしても動かすのは困難だ。

 残るは戸井田が犠牲になるしかないのだ。

 生徒一人を助けても何も得はない。どうせなら女子生徒だったら素直に助けたはずだ。
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