タイムストッパー
 時間を動かせないから、そう言う発想になるのだ。

 戸井田はこのまま時間が止まったままだったら、不安だったので、生徒をがっちりと受け止めることにした。

 幸い、生徒の頭は二階に近かった。階段の途中なら助けるのを断念したかもしれない。階段では足場も悪く、踏ん張れないからだ。

 戸井田は生徒の顔面を右手で押さえ、プロレス技のブレンバスターのように組み合った。そして、特に足元に強く力を入れた。

「動け!」

 戸井田は言ったが微動だにしなかった。ふっと少し力が抜けた。額からは汗が流れるのがわかった。

『動け!』

 と、戸井田は心の中で念じた。肩に重みを感じた。

「わあっ!」

 戸井田の耳に生徒の大きな声が響いた。

 あまりの大きな声にうるさいと思ったが、次の瞬間、身体が勢いよく後ろに引きずられた。

 戸井田の右手のくるぶしが地面に着き、生徒の顔面に損傷はなかった。

「いてて……」

 戸井田の右手のくるぶしは重さと摩擦で血を流していた。

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