タイムストッパー
 生徒は救った。だが、状況がよくわからないのだろう。目をぱちくりとさせ、額を触り、血が出てないことを何度も確認していた。

 ケガをしたのは戸井田だ。床に血が滴り落ちた。

「わあ、血だ、血だ、血だ」

 生徒はあたかも自分の血のように騒いだ。

「大丈夫だよ……」

 戸井田は興奮している生徒をなだめようとした。

「こいつ、こないだタバコ吸って退学したやつじゃないか!」

 生徒は戸井田のことを気がついたようだ。だが、戸井田には見覚えのない生徒だった。

「ああ、そうだ」

「お前、俺に何をした? ヘッドロックで俺を階段から引きずり落としたな」

「それは違う」

「違うもんか! 現にお前の拳から出血してんじゃないか!」

「これはお前が……」

 戸井田はバカらしくなったので口をつぐんだ。身体が急激に疲労し、立っているのもつらくなったし、ケガを救ったのに、いつの間にか階段から突き落としたことになっているからだ。それにいくら時間を止めたことを説明しても信じてもらえるはずがない。証拠を見せろと言われても、時間を止めた証拠などあるわけがないからだ。
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