タイムストッパー

悩む事件

 田久万の席は教室の後ろの方なので、生徒たちの行動が見渡せた。窓がある左前方には茂呂が小さくなって座っている。ドア側の右前方には千紗が微動だにもせずに座っていた。

 大口は身体がデカイので、田久万より後ろに席があるのだ。

右を向けば隣の隣に愛しい慶子が座っている。

いつ見ても気品にあふれていて、千紗と比べても同じ歳とは思えないし、いつ、芸能人になってもおかしくはないオーラを放っていた。

 田久万は悩んでいたのだ。

大口と茂呂の騒動と慶子の存在で少しは忘れていたが、担任教師の話が終わり、ホームルームの時間が終わったのをきっかけに思い出したのだ。

いや、厳密には担任教師が読書感想文の提出の話をしたからだ。

 悩むきっかけになったのは昨日の夜のことだ。

 田久万は夏休み中ずっと遊んでいたのだ。昨日、読書感想文が今日提出なのを思い出した。思い出さなければ、悩むことはなかったかもしれない。

 田久万は読書が嫌いだ。

漫画はたまに読むけど、小説は嫌いで文字さえ読むことさえ拒みたいくらいだ。夜の七時すぎに気がついて、あわててネットカフェに行った。自宅にパソコンがないし、携帯電話さえ持っていなかった。

 あせっていたので、田久万は走った。こんなときに限って、踏み切りは閉まっていた。


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