子犬系男子
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「愁ちゃんお願い!」

「断る。」

「まだ用件言ってないよ!?」

目の前で頭を下げる友人、友原沙有里の頼み事とやらを理由も聞かずに断ってやった。

「どうせ合コンでしょ?」

そう言うと沙有里ちゃんは満面の笑みで「大正解!」と頷いた。

「人数だって足りてるんだし私がいなくたっていいじゃない」

「愁ちゃんは居てくれるだけでいいんだよ!」

は?居るだけでいいって、なんだそりゃ。

「今回くる男子ね、すっごくイケメン揃いなの!でも今日行くメンバーってなんか微妙じゃない?」

おいおい、友達に対して微妙ってひどいな。

「だ  か  ら  !愁ちゃんみたいな美女が1人でもいれば男の子たちを繋ぎ止めておけると思わない?!」

「思わない。そして私は美女じゃい。男子苦手。よって、行かない。」

「そ、そこをなんとか…!!」

「断る。」

「冷徹女!!!」

「なんとでもどうぞ」

キィー!と悔しそうな声をあげて廊下を走り去って行く友人をチラリと見て、私は帰りの支度を始めた。

「冷徹女…か…」

『冷たい女だよな』ふと、元彼の言葉を思い出し、少し気分が沈んだ。

「…帰ろう」

いつの間にか誰もいなくなった教室から出て足早に玄関へ向かった。







玄関に向かう途中、前方から走ってきたであろう男子と見事にぶつかってしまった。

「ってぇ!」

2人で勢いよく尻餅をつく。

「痛っ…君、大丈夫?」

そう言って前方から来た男の子の靴を見ると緑色、2年生か。

私たちの学校は学年ごとに上履きの色が違っているので靴を見ればすぐに学年がわかる。ちなみに私は青色、3年生だ。

「あ!俺は大丈夫ッス!!えっと…先輩…ですよね?ぶつかってすいませんでした!!」

ガバッと頭を下げる男の子に「大丈夫だから頭上げて?」と言えば勢いよく頭を上げた。

「いやでも本当すみませ…んぁ!!」

「え?」

変な声を上げた男の子を不思議に思って「どうしたの?」と言って顔を覗き込むと「あああ!いや!なんでもないッス!!」と言って走り出してしまった。

この学校の生徒はよく走るな、なんて思いながら私も玄関に向かう。

「せんぱーーーーーい!!!」

いきなり後ろから馬鹿でかい声で呼ばれて振り返ると、少し顔が赤くなっている男の子が目に写った。

「な、なんでしょう?」

「俺、2年A組七瀬閭って言います!」

「はぁ…」

「じゃ!また明日!」

そう言うと彼は再び走って行ってしまった。

「なにがまた明日なんだ…」

彼と会うことなんて学校ですれ違うことぐらいなんじゃないんだろうか。

ふとそんなことを思いながら校門を出た。



それにしても濃い1日だった。

特に放課後が。

あれ?なんだっけ、彼の名前。興味のないことってほんと覚えられない。

速攻で彼の名前も忘れてしまった。

まぁいいか。

帰ったら昨日の夜半分残しておいたアイスでも食べよう。



iPodに電源を入れて、最近のお気に入りの曲を聴きながら自宅へ向かった。
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