隣人M
エピローグ

「克己」の遺言

俺は……どこに、いる?うすい光の膜に包まれて……。まぶしい……。あたたかい、光……。

誰かが、呼んでいる……?誰?聞いたことが、ある。懐かしい……なぜ、聞いたことがあるんだろう?

―君が、俺だからさ。

そうか、「克己」さんか。ねえ、聞いてもいいだろ……?俺は、どこに、行くんだ?

―こっちの世界さ。君は、体を与えられるんだ。

体……。

―そうさ。もう、夢の中は生きなくていい。夕夏たちが住んでいたこの世界を……目で見て、しっかり歩んでくれ。

あんたの夢、か。俺のこと、うらやましかった?

―もちろんさ。誰でも、夢は憧れだ。

そうだね。今、考えたら、俺に夢なんてなかった。そう思うと、夢があったあんたがうらやましい。

―そうか。俺が、ね……。

なんで笑う?

―いや……意味はないさ。無意味なことだって、この世にはあふれてる。何にでも意味づけをすることはないんだ。

あんた……どうして、そう何もかも悟ったような口調なんだ?しっかりしてそうなのに、どうして分裂症になって、夢の俺を作りだした?

―いろいろ、な。そのうち分かるさ。君が現実を生きるようになれば。さあ、おしゃべりはここまでだ。もうすぐ君の意識が戻る。今から君が、「結城克己」だ。8年間の想い……俺の夢……さよなら。




生きる……今から、生きていく。あの光の向こうに、世界が見えている。


ナンセンスなものが氾濫している「世界」。夕夏さんや椎名さんの「世界」。


なぜか、いとしくて……。  





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