放課後と炭酸水【BL】
「乗って」
サドルに跨る総太の肩に手を掛けて、アキは自転車の荷台に乗る。
「極力頑張るけど、一応掴まってて」
「ん。よろしく」
どこに掴まろうか一瞬考えてから、アキは総太の肩に両手を掛けた。
ゆっくりと進み出す自転車は小さな段差でも揺れて、不覚にもアキは手に力を込めてしまう。
揺れに驚いた事を知られたくなくて、片手を総太から外して肩に掛けた鞄に添えた。
総太の自転車は、いわゆる『ママチャリ』でスピードも出なければ乗り心地も微妙だ。
それでも風を切って走るのは歩くより何倍も心地良い。
何気なく進行方向を見ていても、別の方向を見ていても、嫌でも総太の後頭部が視界に入ってくる。
首筋に浮かぶ汗を見て居るだけで、何だか自分まで暑くなって来た。
交差点の信号で止まった時、不意に総太が後ろを振り返ってジロリとアキを睨みつける。
「なんだよ」
「漕ぐのすんっごい疲れる。アキって体重何キロあるの?」
「55……くらいかな」
「……そうだよね。アキは寧ろ痩せてる部類に入るよね……」
「筋トレだと思って頑張れ」
「代わってよ」
「イヤだ」
そうこうしているうちに信号は青へと変わり、ブツブツと何かを言いながらも総太はペダルを漕ぎ出した。
緩やかなアーチの橋を登り上げ、その途中で脇道に逸れるとサイクリングロードに入る。
緩やかな坂を下り、長閑な風景が広がるその道は大きな川に沿って続いていた。
コンクリートだらけの道路と比べれば遥かに涼しさを感じさせるサイクリングロードではあるが、どんなに風が吹いても川からの湿った生温かさしか感じられない。
汗を軽く拭ったアキは、鞄に手を突っ込んでペットボトルを取り出す。
まだ少し冷たいソレは、プチプチと気泡の弾ける炭酸水。
ひと口飲めば、心地良い清涼感が喉を過ぎていく。