瑠璃の瞳と夕焼けと

憶い

リウスは、どくどくと高鳴る胸の鼓動が収まらないまま、近くにあった書物を手にとった。それは、東洋の小さな海洋国の話らしかった。

「素敵よね、その国。夕焼けがなくなっても、笑っているのだもの。前向きで、明るい国だわ。」

突然後ろから声がしたので振り返ると、そこには目覚めたバニラがいた。

ダメだ。リウスの鼓動はどんどん速まる。

バニラは遠い目をして言った。

「でも、今の私では、その世界は幻想、見つめている物は空虚に
過ぎないわ。さっきは、あなたにそれを面と向かって言われて、少しスッとした。ありがと。」

感情が篭っているのかわからない瞳を見開き、彼女はさらに言った。
リウスに隙を与えない。よく喋る姫様だ、とリウスは思った。胸のざわめきは、少し収まってきた。

「私が奪ったものは二度と取り戻せないわ。あの美しい夕焼けは、もう見れないの。
わたしがいる限り、もう二度と…」

バニラが、初めてまっすぐにリウスを見つめた。リウスは口を開いた。

「そうか。じゃあ、自分がいなくなれば、夕焼けは戻るって?」

「ええ。そうよ。……けど、私はまだ生きたい。誰が何と言おうと、生きたいの。」




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