愛恋歌-tinkle tone-
今思うとそのときの行動は自分でも分からない。
私は仔犬を抱いてびしょ濡れになった彼の腕を掴んで立たせると、そのまま引っ張って歩きだした。
そんな私の行動に彼も何も言わず、後ろを付いてくる。
電車に乗って二駅。
全身びしょ濡れの男女。
着くまでの数分、痛いほどの視線が私たちに注がれていた。
仔犬は彼が必死にパーカーの中に隠していたけど…
「ここは?」
玄関の前に来てそれまで黙って付いて来た彼が初めて口を開いた。
ちょっとレトロ感の漂うアパートの一室。
「私の家だよ…」
半ば強引に連れて来てしまった。
知らない男を家に上げるなんて私どうかしてる?
しかも自分から…
これじゃあもし危険な目にあったとしても何も言えないよ。
だけど、放っておけなかった。
彼も仔犬も…
助けを求めるようにあまりにも綺麗な目をしていたから…