理想恋愛屋
 現れたのは、黒いシャツに黒スーツ、金のネックレスが怪しい男二人組みだ。

「あんたらねぇ、いい加減やめなよ……」

 ため息を深くはぁーっとつくと、男二人はオレにいきなり飛び掛ってきた。


 ええぇ……!?


 驚く暇もなく、咄嗟にかわしたものの、もはやそれは人間の動きではない。


 一体、なんだってんだよ、これは!!


 そのとき、路地裏から聞きなれた声がした。


「葵!」

 そこには逃げ惑う人たちにまぎれて、身を潜めるようにしていた彼女。

「変身するわよ!」

 いたって真剣な瞳。

「…は……、はぁぁぁああっ!?」

 すっとんきょうな声を出してしまったが、彼女はいたって普通だった。

彼女は萌の肩を優しく抱いて、一段と力強く見つめていた。


「大丈夫、ここはあたしたちに任せて!」

 その言葉に萌はコックリ頷くと、人波にまぎれていった。


 ちょいと、皆様。

この展開についていけないんですけど……?


 ぽかんとやりとりを見守っていると、キッと睨みあげてくるのは彼女。

「ほら、やるわよ!」

 彼女は制服のポケットから携帯電話を出し、天にかざし始める。

「えっ?えぇっ!?」

 戸惑っているうちに彼女はピカッと光りはじめ、そのまぶしさに思わず手をかざしてしまった。


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