理想恋愛屋
　寝ていたのは、オレの事務所『理想恋愛屋』のオフィスのソファ。

いや、そんなことはどうでもいいんだ。


　肝心なのは、状況だ。


　必死に頭を回転させるものの、頭痛が酷くてうまく回ってくれない。
そして、このなんともいえない夏の暑さとアルコールの匂い。

　最悪の事態が冷や汗を増幅させるばっかりだ。




　なんていったって。




向かいのソファにキレイな女の人がいる。


「ん～……」


　目の前には、眠そうにキレイな黒髪を流した頭をうつらうつらと揺らしている女性。そして、その薄い肩にかけているのは見覚えのある背広。

今、オレが穿いてるスーツと揃いのジャケットなのだ。


『ちょっと、葵!?』


　受話器の向こうから聞こえる末恐ろしい彼女の声が、より一層オレを焦りへと導く。


　いやいやいや、ココで取り乱すものか…！


　未だついていかないこの状況に、必死に電話越しに悟られないように対応しなくてはならない。



　オトナの男の威厳として。

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