理想恋愛屋
 スッと長い指が伸びてきて、転がってしまったアイスのカップを拾ってくれた。

それはさっき携帯を渡してくれた声と一緒で、指からなぞるように見上げると、ソファでまどろんでいた女性。

少しハスキーな声音が色っぽい。


 …なんて考えている場合じゃない!


「わ、悪い、待たせたな!…えっと、残り2つだよ!」

 誤魔化すようになぜか声が大きくなってしまっていた。

周りの音を隠そうと「あはは」と無駄に笑い声を上げてしまったのも、オレがまだ未熟のせいなのは重々承知だ。


『……ふーん…』


 彼女の声が、ゾクゾクと寒気を誘う。


「じゃ、じゃあ、そういうコトだから…!」

 オレが払拭するように、閉じるボタンを押す瞬間だった。


「社長さん、彼女からの電話?」


 ニッコリと微笑む目の前の女。

それが電話越しにも聞こえてしまったんだろうか、彼女からの呼び声。


『…あ、葵ぃっ!?』


 オレは恐怖のあまり、答えもせずに震える指で通話を終わらせてしまっていたんだ。



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