理想恋愛屋
 どうすればいいんだ…!?

 目の前の見知らぬ女性に背を向けて、ソファに隠れるように頭を抱えたまましゃがみこんだ。

そんな焦る一方のオレとは対照的に、事務所内にはクスクスと笑い声が響いた。


「アタシのこと、忘れちゃったの?」


 冷蔵庫の前から一歩、また一歩とオレに近づいてくる。


 改めて見るけれど、本当に顔も分からない。

わりかし顔と名前を覚えるのは早いほうだから、この『恋愛屋』の客だったとしたら覚えているはず。


 それでも思い出せないのは…。

考えたくないけど、最悪な状況しか想像できない。


 しかし…。
万が一、そんな場合、ソンナコトをしちゃったくせに忘れたってどうよ?

そんなんでオトコの威厳なんて、欠片も感じないに決まってる。


 なんとしてでも隠し通さなくては…!!


 オレのちんけなプライドが、今では命綱だ。


「い、いや、忘れたわけじゃないんだけど…っ」


 苦笑いなのもバレているのだろうか、怪しい笑みを浮かべてゆっくりオレの目の前までやってきた。


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